2022/10/23 01:30

10月13日(木)〜10月16日(日)にかけてニューヨークで開催されたアートブックフェア『NY ART BOOK FAIR 2022』に出展しました。

『NY ART BOOK FAIR』は、Printed Matter, Incが主催する世界最大級のzine・アートブックの祭典です。
私どもは2019年に初めて参加し、以降コロナ禍でオンライン開催になっていた間も参加してきました。今年は久しぶりのリアル開催となります。

写真は自分で撮影したもののほか、オフィシャルで記録されたものを使用させて頂いております。
Courtesy of Printed Matter, Samantha Palazzi, Alex Lyon,  Cindy Trinh and Patrick Woodling

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久しぶりの海外だ。
飛行機に乗ったのは2020年1月に香港のアートブックフェアに参加して以来、2年半以上経ってしまった。
このニューヨークのアートブックフェアに前回来たのは2019年。その間をみんな別々の場所で生きて、さまざま制限を受けながら活動を続けてきたわけだ。

乗り継ぎのシアトル空港のセキュリティで探知機に引っ掛かり、なにか外し忘れたかと画面を見ると僕の股間が光っていて、黒人のイカツい検査員に「触って確認するがいいか?」と尋ねられるなどの小さなトラブルはありつつも長いフライトを終え、ニューヨークに到着したときには「戻って来たぞ〜」という気持ちにもなるかと思っていたが、前回とは違う空港に到着したためそんな感慨はなかった。

実はNY ART BOOK FAIRはコロナ前最後のリアル開催となった2019年までクイーンズにあるMoMa PS1という会場で開催されていたが、今年は会場をマンハッタンに移している。この新しい会場はそれよりさらに前にNY ART BOOK FAIRを開催していた場所だそうで、いわば原点回帰、といった趣きだろうか。

変わらずな貧乏人具合と円安に首を絞められ、なるべくホテルの宿泊数を減らしたかった僕は「飛行機にいれば安全に屋根と飯が確保できる」と、フライト中に夜を越えるスケジュールを組んでいた。
つまり空港に着いたのはオープン当日の早朝。窓から朝日が差し込む電車で会場へと向かった。



会場は全4階とルーフトップを含む5層になっており、1~4階のなかに各出展者のテーブルが配置されている。
テーブルの規格は2種類あり、通常サイズとワンサイズ小さい個人出版・ZINE向けのものとある。
入口で名前を告げてパスをもらうと僕たちは4階だと教えられた。1〜3階は通常サイズを借りた出展者が配置され、4階は通常サイズの一角と、ZINEエリアという区分になっていた。

オープニングの一般来場は夕方6時から夜9時まで。
早朝に空港に着き、直接会場入りしたので昼には設営は完了した。
時間をもてあました僕は同じように早い会場入りだったお隣のspotzや、主催のPrinted Matter, Incのメンバーに挨拶をし、まだ設営中の会場を各階見て回った。

テーブルには出展者名が表記されている。
「ここはあとで覗きにこよう」「インスタで見てた出版や〜」とミーハーぶりをマスクの下に隠しつつ、それでもまだ時間は余った。

ホテルにチェックインするのが夜になるため食料の買い出しはこの隙間時間でしておく予定だったが、それを済ませてもなお余裕。「観光でも…」と思ったが24時間ちかく横になっていない40代目前のおじさんにそんな元気はなかった。公園のベンチでさっき買ったパックのラズベリーをもしゃもしゃと食べて眠気を覚ました。ビタミンは大事。

夕方6時を過ぎ、はじめはお客さんはチラホラで「あれ?こんな感じ?」と不安になったがすぐに増えていった。
4階にいるのだから当たり前だ。ひとは下から登るものだもの。



フェアは盛況だった。
それでも原点回帰したこの会場は通路幅も充分確保されているし、天井も高く開放感があり、せせこましくは感じなかった。
2019年は野外テントに配置されたZINEエリアに出展し、あの混沌とした熱気もそれはそれでとても気に入っていたが、この新しい環境は素晴らしかった。

売り上げは好調だった。いや、好調どころじゃない。
持ってくる本の量が足りなかった、と言っていい。
2日目の後半、3日目の早い時間帯には売り切れが続出してしまい、はじめは本で隠れていたテーブルが見え始めていた。

カセットテープシリーズ や《 404 /ball gag 》が先行して数を減らしていった。特に《 window 6 /山下望 》は、残った分をTOKYOARTBOOKFAIRに、などと軽く考えて再入荷した分を全部持ってきたら売り切れてしまった。
ニューヨーク州ロングアイランドの先住民シネコック・インディアンと鯨の物語を尋ねた《 Ordinary Whales ありふれたくじら vol.6 / 是恒さくら 》も地元の話ということでやはり注目度が高かった。

このフェアでローンチとなった新作《 Perfect World /大西晃生 》《 丁寧な草むしり /辻悠斗 》も、ともに早々に欠品してしまい、《 丁寧な草むしり /辻悠斗 》に関しては熱量の高い購入希望者に「どうしても手に入れたい!」と連絡先を交換した。

それらが早い時間に売れていったタイトルだが、《 breath /金本 凜太朗 》《 JANUS /青木大祐 》《 BREATH DRAWING /MOCKUMENTARO 》もそれに続くように売れていった。
《 DUST FOCUS /木原悠介 》を見て気に入った方が「素晴らしいよ。この暗い穴に落ちたような…」と感想を伝えてくれたので、ブースに立てられた自分たちの出展者名を指さしながら「なんたってうちは"crevasse"だからね!」って冗談言ったら笑ってくれた。



有名でもないアーティストが多く、さらに無名な僕らが取り扱うzine、そして"crevasse"という名前もあってかどうしたって「コアな趣味」「アンダーグラウンド」と修飾されることが多く、それはそれで悪い影響でもないのでスルーしているが、やはりそんなことはないんだとあらためて実感した。
こうして多くの、しかも文化も言葉も違う人にちゃんと刺さる表現なんだもの。
取り扱っているなかでも地方で活動を続けるアーティストも多いため、身近に理解者がいなくて「自分のしていることはコアなのか」と自己暗示がかっている方もいるが、そんなことはない。すくなくとも僕は王道をやっているつもりです。



ひさしぶりのリアル開催、ということもあってか来場者の買う気持ちや熱量の高さはやはり凄かった。
日本で自粛ボケ、慎ましい貧乏節約生活ボケしていたこちらが見誤っていた。
もっとたんまり持ってくるべきだった。
少部数のzineを扱うという僕らの特徴を差し引いて考えても、ここは勝負時だったのかもしれない。円安だし。




前に別のブログでも書いたが、NY ART BOOK FAIRは来場者層の属性が多様だ。だからこそ刺激的で楽しい。
属性とは肌の色の問題ではなく、ファッションなどから見えるそのひとが背負ってるカルチャーだったりや年齢の幅を含む。
とにかく様々な属性のひとがそれぞれの目的で楽しみにきている雰囲気がある。

それに対して僕らのブースは写真やイラストといったジャンル的な縛りがないことは強みに働いていると感じた。例えば、はじめから写真集を探しにきているひとが足を止めるのは写真集だ。ブースに幅広いフックが用意できているのは強い(クセが強いとは言われるが)。そして足を止めてさえくれればその横にある別の表現手段のものにもスライドしてくれる可能性もある。

ただ偏りは無いわけではない。
むしろ今回はこちらが意図した面もあった。
取り扱いタイトルのうち日本、台湾、香港、中国といった東アジアの出版物を優先して選書していた。 

それはフェア全体から逆算して、日本からわざわざ来る僕たちに何が期待としてあるのか、何が武器になるのかと考えたうえでの作戦のようなものだった。




これはカウントもしてないため主観的な感想になってしまうが、僕たちの購入者は中国や香港からの留学生やアジアルーツの女性がやや多かった気がしている。

すごく気にいってくれて長く立ち話をした方がそうだったせいもあるかもしれない。
その方は台湾ルーツでニューヨークに7年住んでいるそうだが、僕らのブースの「繊細さ」に共感したと表現していた。
その日は友だちと来ていたそうだが、こっちでアジアをテーマに語るとき、その手付きにわかりやすいステレオタイプ(日本モチーフならアニメ絵や漢字など)が散見されて、やや食傷気味だったそうだ。

その反応にはすごく考えさせられた。
今回僕は会場から離れたアジア人街に宿泊先をとっていたのだが、朝向かう途中、建物のそとに「アジア人ヘイトを許さない」と横断幕がかかっていた。
会場からその街に夜9時ころ戻ってくると広場で中国ポップスをラジカセで掛けながら数組の男女が手をとってダンスをしていた。その光景は上海の夜に見たものと一緒だった。取り囲む風景だけが違っていた。



この社会にアジアンコミュニティを作り、偏見と日常的に戦っているひとがいる。そう思うと、日本から直接やって来ました、来週には帰ります、という僕のような人間が例えばわかりやすいステレオタイプを持ち込んで消費していたらどう映っただろうか。

今回のその女性は好意的に僕らを見てくれていたが、東アジアの出版物を優先しようという僕の考えは、ともすれば同じ穴のムジナではなかったか。

国、というより別の社会に干渉して表現を届けようと思ったとき、そこには信号機のない横断歩道がある。
目を瞑って渡ろうとするやつはただの馬鹿だ。
ちゃんと目を開けていなくちゃいけない。

それでも時にクラクションを鳴らされ往来の邪魔になってしまうとき、素直に頭を下げようと思った。



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【特に楽しかったブース】

spotz
Instagram @spotz.club

Fotosfera Club 
Instagram @fotosferaclub

Club del Prado
Instagram @clubdelprado

issue press
Instagram @issuepress

Pomegranate Press

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【日程】
10/13(木)18:00~21:00
    ・アフターパーティー 22:00~25:00
10/14日(金)13:00~19:00
   ・プレビュー時間 11:00~13:00
10/15(土)11:00~19:00
    ・ブロックパーティー 12:00-18:00
10/16/(日)11:00~17:00

出展リストはこちら

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【告知】
10/27~30、東京都現代美術館で開催される『TOKYO ART BOOK FAIR』に出展します。
事前予約制となっておりますので、ご予約の上お越しくださいませ。