2023/05/28 20:03
コロナによる海外への渡航制限が解かれ、滞在中にさらに日本への入国手続きにワクチン証明書の提示が不要になるなど、段階的な緩和があったなかの香港へのアートブックフェア参戦だった。
![](https://baseec-img-mng.akamaized.net/images/user/blog/250980/blog/f9b8f7e61ec3a76f3770325616017653.jpg?imformat=generic&q=90&im=Resize,width=2048,type=downsize)
前回香港に行ったのは2020年の1月。
その時は過熱化するデモ隊と警察の衝突に厳戒態勢が敷かれるなかだったので身の安全を不安に思ったものだったけど、なんの不安もない「平和なとき」なんて待っていても来ないのかもしれない。
アートブックフェアが開催された4日間は、休暇を香港で過ごそうとする大陸からの入境者も多く、帰宅時間の公共の交通機関は旅行者で埋め尽くされていた。
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「ホテルは前回泊ったところでいいか。安かったし、会場まで近かったし」
と、ホテルを予約しようとしたが料金が爆上がりしていて諦めることに。
前回同等で泊まれるようにソートをかけると「キョウトゲストハウス」なる宿が出てきた。
会場のある香港島から、ヴィクトリア・ハーバーを挟んだ九龍島の街「尖沙咀(ツィムサーツイ)」。
そこにある「重慶大厦(チョンキンマンション)」、その一室だった。
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「マンション」と名付けられている通り元々は住宅として建てられたビルだが、1~2Fフロアには両替店、飲食店、雑貨店などが並んでいる。以降の上階には数多くの安宿がひしめき合う、バックパッカーにはその名の知れた「ディープでカオスな」スポット。そこでは南アジア・中東・アフリカなどの出身者のコミュニティができていて、どこにいてもスパイスの匂いが充満していた。
一体なにが「キョウト」なのかは不明だ。
大量の本が入ったスーツケースを持って各棟2機のエレベーターを抜け、ようやくゲストハウスのある15階に辿り着くもレセプションが見当たらなかった。
このままではチェックインできない。
閉められた扉に書かれた管理者の電話番号にかけてみるしかない、とWifiをゴソゴソしていたら
「宿泊者のひと?」と後ろから英語で声をかけられた。
振り返ると50代くらいの東南アジア系のおばちゃん。
どうやら管理者の方らしい。
「チェックインしたいんですが」
「どうぞ中に入って。いま宿泊名簿を確認するわね」
よかったよかったと安心したのも束の間、
「あれ?どこかしら?名簿に名前がないわね」あ、これです。これ僕。
「えと、5/1まででよかったかしら?」あ、5/2までですね。ほらバウチャー印刷してきたから見て?ね。
「部屋がいっぱいだから別の棟でもいい?」...。
チョンキンマンションの内部はA棟からE棟までの5つに分かれている。
同じ建物にひしめく大量のゲストハウスは、ひとつひとつにそれぞれ別の管理者がいるわけではない。
数グループで取り仕切っているのだろう。
予約なんて関係ないのである。
広さや設備は変わらないということで、部屋は変更された。
新しい部屋は「ニュー・チャイナ・ホテル」というらしい。
やはり名前なんか、ただの記号でしかない。
「着いたわ、ここよ」
とドアを開け、パチッと電気をつけると白いタイル壁を黒い小さな虫がササっと逃げて行った。
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ここが5日過ごす部屋か…。
ベッドが8割を占めた最小限度の部屋は、日本の店舗型風俗店のそれだった。
(まじで過去はそうだったのかもしれない)
変更された「ニュー・チャイナ・ホテル」までスタスタと早足で別棟に連れてこられてしまった。
まずはダンジョンのようなこの建物の構造を把握しないと、この部屋の正確な場所を覚えないと二度と戻ってこれないぞ。
一通りルームキーや給湯器の説明を受け、おばちゃんは愛想よくニッコリ笑って帰っていった。
だれにも頼れない。
ひとりで来たのだから。
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翌日。曇り。
高温多湿な香港だが、夏の日本と比べれば4月末の香港は過ごしやすかった。
地下鉄で香港中央駅に降り着くと徐々に前回の記憶がよみがえってくる。
「会場まで、坂、多いんだよなぁ...」
世界都市・香港の街は、歩道が狭く建物が高く"ぎゅっ"としていて、誰かが考えた「さいきょうの俺の街」って感じがして好きだ。どこか東京にも似ている気がするし、ニューヨークにも似ている。
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![](https://baseec-img-mng.akamaized.net/images/user/blog/250980/blog/9c453605ac724b89e681ba49fb63a7f6.jpg?imformat=generic&q=90&im=Resize,width=2048,type=downsize)
香港のアートブックフェア「BOOKED」は、会場のひろさや出展者数からいうと世界的に見て "中規模からやや小規模" にあたると思う。
アーティストブースに地元の出展者を多く受け入れつつ、ニューヨークのPrinted Matter, inc.や、チューリッヒからNIEVESらを呼び、Asia Art Archiveなどアジア地域で連帯する文化活動の紹介を積極的におこなうなど、国際色を意識しているのが特徴的だ。
来場者として東京アートブックフェアに「激混みでぜんぜん落ち着いて見れなかった」という感想をお持ちの方には香港の「BOOKED」の落ち着いていてちょうどいいサイズ感はおすすめできる。(僕は売り手としても、激混みで冷静でなんかいられない熱狂の渦、って感じのフェアも好きだけど)
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それと個人的なお気に入りがもうひとつ。
それは、会場内でアートパフォーマンスが行われること。
専用ステージではない。
ハプニングのように、イベント中に、同じフロアで起きるのである。
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実際に本をつくるだけでなく、様々なアーティストが「本をつくるとはなにか」アプローチする余地があることを提起するのは素晴らしいことだと思う。
真面目な理由からもそう思うし「お祭りなのだから」というわっしょい感というか、イベントに対する何かが起きる期待感としても大切なピースになっている。
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これまでの海外遠征、ほぼひとりでやってきた。
それは勝手にやってきたことだし、当たり前のことで孤独だと悲観的に思ったりはしていない。
2019年頃に香港から売り込みのメールをもらい付き合いが始まり、そのひとにこの香港のアートブックフェアBOOKEDを教えてもらった。2020年に初めて香港に来て顔を合わせ、コロナを理由に渡航ができない間もお互いの本を委託し合ってそれぞれの国で協力してきた。
滞在中の食事をひとりでする機会は少なかった。
「明日の朝はひま?」と朝食までお世話になった。
会場でも明るく声をかけてくれる。
彼らだけでなく、お隣のブースは初対面だったが僕が一人で日本から来ていることを把握して「コーヒーいる?」「トイレ行きたくなったら声かけて」と言ってくれる。
優しい。
みんな優しすぎるぞ。
海外遠征で、はじめてひとりじゃない滞在をした気がする。
他人を遠ざけているつもりはないけれど、住処が田舎にあることもあって遠征に限らずひとりでいることが常態でバグっている僕は、そういった優しさに不慣れでちょっぴり疲れはしたが、甘えに甘え全乗っかりして楽しませてもらった。
最終日の搬出。
心の底から「See You Next!」と挨拶してバイバイした。
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【BOOKED: HONG KONG ART BOOK FAIRで仕入れてきた本】
【イベント情報】
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BOOKED: HONG KONG ART BOOK FAIR
■会期
日時:4月28日(金)〜5月1日(月)
■会場
大館當代美術館 Tai Kwun Contemporary/香港
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